近年よく聞かれるようになった「ビーントゥバー」。
チョコレート専門店をはじめ、最近ではコンビニスイーツでもこの言葉を見かけるようになりました。
でも実はあまり意味を知らないまま、なんとなくイメージで「おいしそう」「高級そう」なチョコレートだと思っていませんか?
その認識、もったいない!
この記事では、
- ビーントゥバーとはどんなものか
- ビーントゥバーの特徴
- ビーントゥバーの楽しみ方
などを解説していきます。
ビーントゥバーの奥深さを知ると、チョコレートの世界がぐっと広がり、楽しみが倍増します!
日頃のチョコレートとは違った味わい方をぜひ堪能してみてください。
ビーントゥバーとは?
「Bean to Bar」
ビーントゥバーは英語で「Bean to Bar」と書きます。
Beanは豆。ここではチョコレートの原料であるカカオ豆のことを指します。
Barはチョコレートバー。板チョコレートのことです。
直訳すると、「豆からチョコレートバーまで」となります。
ビーントゥバーの意味
豆からチョコレートバーまで、とはどういうことか?
それは、原料であるカカオ豆の仕入れや焙煎から、その後チョコレートになるまでの全工程を、一人の作り手もしくは1つのブランドが行うことを言います。
一人もしくはひとつのブランドが一貫生産を行うため、独自のこだわりをチョコレートに踏襲することができるんです。
一言で表すと「こだわりの強いチョコレート」となります。
一般的なチョコレートの製造工程
通常、一般的なチョコレートの製造過程はというと、基本は分業制。
- カカオ豆を育てる農家さんがいて、
- カカオ豆を仕入れてチョコレートのベースに仕立てる加工屋さんがいて、
- 仕入れたベースを加工して製品化する人がいる。
ショコラティエさんやパティシエさんは、この最後の工程である「製品化」の部分を担っています。
つまり、チョコレート職人さんは基本、仕入れたチョコレートを加工するのが一般的なんです。
しかし、仕入れとなると細かな原料の調合などは当然ながらできません。
カカオ豆の焙煎やブレンドなども済んだものを使うことになります。
カカオが違えばチョコレートが変わる
原料であるカカオ豆。実はとっても奥が深いんです!
産地によっても風味が違うし、豆の発酵具合によっても風味に違いが出てくるんですね。
もっと言うと、同じ原産国でも生産者さんの違いでチョコレートに違いが出てくるといいます。
さらに焙煎の具合でも風味が変わってくるので、たとえば「カカオ100%チョコレート」というくくりの中でも、どこの産地で、どの生産者さんの豆を、どんな焙煎方法で・・・という条件によって全然違うチョコレートになるんです!
焙煎の温度や時間、砂糖やミルクの配合、チョコレート生地の練り具合・・・無限のバリエーションがあるといっても過言ではありません。
カカオに魅了されたショコラティエ
僅かな違いでチョコレートの風味が変わってゆく奥深さに、ショコラティエさんがどんどん魅了されていきました。
でも、仕入れ品だと豆の発酵やら焙煎など、自分の意思を反映させることはできません。
そこで、ショコラティエさん自らがカカオ豆を選別し、焙煎を行い、チョコレートにまで仕立ててしまうようになったのです。
これがビーントゥバーというスタイルで、このスタイルで作られたチョコレートを「ビーントゥバーチョコレート」といいます。
ビーントゥバーの社会的背景
ビーントゥバーには、実はもうひとつの社会的背景があります。
ここではその背景について詳しく見ていきます。
チョコレートは「甘いもの」
チョコレートといえば、「甘いお菓子」ですね。甘いものが嫌いな方はほぼ皆様チョコレートが苦手です。
私たちは小さい頃からスーパーなどで購入できるチョコレートを食べ、甘くとろける食感と鼻を抜けるカカオの香りに癒されてきました。
なので、誰しもがチョコレートとは甘いお菓子であると認識しています。
甘くないチョコレート
甘くておいしいチョコレート。
しかし、近年で登場した「ハイカカオチョコレート」の存在がこの常識を覆しました。
ハイカカオチョコレートとは、カカオの割合が高いチョコレートのことです。
その分砂糖が少なくなるので、食べたときの甘さが控えめ。
区分としてはビターチョコレートになります。
初めてハイカカオチョコレートを食べた人の多くは、「こんなのチョコレートじゃない」と感じてしまいます。
それもそのはず。ハイカカオチョコレートには、私たちのよく知る「チョコレート」の特徴である甘さや食感がありません。
ダイレクトに感じる苦みや渋み、酸味など。これがハイカカオチョコレートの特徴であり、カカオの本来の姿に近いのです。
カカオ豆への原点回帰
15世紀~16世紀頃、カカオは「ショコラトル」という飲み物として親しまれていました。
ショコラトルとは、カカオ豆をすりつぶし、そこにスパイスを加えたとても苦くてスパイシーな飲み物。
そこに砂糖を加えて飲みやすく改良し、さらに技術の進化によって固形にすることでチョコレートが誕生しました。
そして、現代ではさらに口どけをよくする添加物や代用油脂なども加えられ、より手軽で食べやすいお菓子へと発展していきました。
つまり、チョコレートが「甘いお菓子」なのは、現代のマスマーケット(一般消費者向けの大量販売市場)に向けた発展のかたちだったわけです。
多くの人がチョコレートを楽しめるようになった反面、カカオの風味はどんどん失われていきました。
そこで、本来のカカオの風味を感じられるチョコレートを作りたい!との想いから、素材へのこだわりの強いビーントゥバーが誕生したのです。
小さな工房・小規模生産
このような背景から生まれたビーントゥバーは、比較的小規模で生産されることが多いです。
こだわりのカカオ豆を使用するために、決まった収穫量でのみ生産を行ったりするためです。
また、小さな工房で個人の方が一人で行われていることもあり、生産量が限られる場合もあります。
だからこそ生まれるこだわりのテイストがあり、それが味わいとして愛されるんですね。
カカオの産地と繋がる
人を惹きつけてやまないカカオの魅力。
カカオへのこだわりは生産国のみならず、生産者との繋がりをも生み出します。
特定のカカオ生産者と直接契約を結び、フェアトレード(原料を安価ではなく適正価格で仕入れる仕組み)で仕入れて独自のチョコレートを追求する人。
ショコラティエさんが生産地に足を運び、カカオ農園での栽培や発酵などを農家さんとともに作り上げていく人。(=「ファームトゥバー」)
農家さんとカカオの木から生育を見守り、良質なカカオが採れるよう取り組みを進める人。(=「ツリートゥバー」)
これらの取り組みは、生産者の生活や経済を支え、私たち消費者の生活をも支えるサステナブルな社会貢献の一環として注目されています。
ビーントゥバーの特徴
ではここからは、ビーントゥバーの特徴について詳しく見ていきましょう。
カカオ豆への強いこだわり
ここまでで見てきたように、作り手が原料であるカカオ豆に強いこだわりを持っています。
産地のこだわり、焙煎の違いなど。
ビーントゥバーチョコレートを購入するときは、こだわりをしっかりと理解しておきたいですね。
シングルオリジン
ビーントゥバーは、カカオそのものの風味を楽しむものです。
そのため、基本はシングルオリジンで、違う産地や風味とのブレンドなどは行いません。
カカオの違いをしっかり味わえるようになっています。
お店やパッケージにあらわれる思想
ビーントゥバーは、カカオへのこだわりはもちろんのこと、お店の内装へのこだわりや、パッケージデザインなどにもこだわりが強い傾向があります。
お店ごとに明確な違いがあるので、チョコレートとともに楽しんでいただきたい部分です。
ハイカカオチョコレート
カカオの風味を楽しむため、あまり他のものは多く入れません。
砂糖が入っているものもありますが、普通のチョコレートに比べてごく少量です。
一部のお店ではカカオ100%のものもあったりします。(かなり限定されますが)
つまりのところ・・・甘くないものも多いです。
板チョコレート
チョコレートの形は、基本は板チョコ。
なぜなら、チョコレートの味をもっともシンプルに出せるのが板チョコだからです。
私たちがよく目にするボンボンショコラやトリュフ、生チョコなどは中に「ガナッシュ」という生クリームを使った生地が使われていて、カカオそのものの風味を味わうにはあまり向いていません。
最近ではケーキやクッキーなどのスイーツのラインナップが増え、さまざまなバリエーションで楽しむことができるお店も増えました。
値段が高い
ビーントゥバーチョコレートは、板チョコ1枚で1,000円を超えるものも多くあります。
つい「板チョコ」というと、スーパーなどで安売りされている1枚100円程度のものを想像してしまい、「わ~高い!」って思っちゃいますね。
市販のものはコストを削減するために、工場での量産や代用油脂の使用など、さまざまな工夫を行っています。
しかし、ビーントゥバーは素材そのものにこだわりがあるため、量産や添加物などでの対応はしません。
作り手自身が現地へ出向き、こだわりのカカオを選別し、手間と時間をかけて丹念にチョコレートに仕上げます。
そのため、値段が高くなってしまうんです。
ショコラティエさんのこだわりと情熱に対する価格だと思えば決して高くはありませんね。
このポイントを理解していないと、やはり高いと感じてしまうかと思います。
ビーントゥバーの楽しみ方
ではここからは、ビーントゥバーの楽しみ方をいくつかご紹介します。
自分なりの楽しみ方を見つける参考にしてくださいね。
カカオの風味の違いを楽しむ
一番の楽しみは、カカオの違いによるチョコレートの風味の違いです。
コーヒーも似たような楽しみ方をするので、例えるとわかりやすくなります。
コーヒーも産地によって特徴のあるコーヒー豆や、焙煎の具合やお湯の温度で違った風味を味わうことができますよね。
そして、コーヒーの風味を最大限に引き出す、おいしいコーヒーを淹れる人の腕。
その人の淹れたコーヒーが飲みたくて、足しげくお店に通ったりして。
ビーントゥバーチョコレートの楽しみ方もほぼ同じ楽しみ方ができます。
カカオの産地による風味の違い、焙煎による苦みや酸味の違い。
そして、そのカカオを選び、風味を最大限に引き出すショコラティエさんの技術。
同じ産地の、同じカカオ含有量でも、お店によってまた違った風味があるのも興味深いです。
いろいろなお店のチョコレートを食べ比べてみて、ご自身の好みのチョコレートを見つけてくださいね。
思想や価値観を知る
ビーントゥバーは、作り手のこだわりが強く反映されています。
特定のカカオ農家さんへのこだわりから、ファームトゥバーに力を入れていたり。
オーガニックのこだわりが強く、カカオだけでなく砂糖もこだわりのものを使ったり。
無添加にこだわり、砂糖や添加物を入れないチョコレート作りを行っていたり。
それぞれのお店によって、はっきりとした意思があります。
チョコレートを味わう際には、こだわりを理解した上で食べるともっと楽しくなります。
お店で直接購入する際は、ぜひ店員さんとのコミュニケーションも楽しめるとさらに親しみが湧きますよ!
ちょっと勇気がいりますが、ぜひチャレンジしてみてください。
お店の内装やパッケージを楽しむ
思想や価値観は、チョコレートだけにあらわれるものではありません。
チョコレートを包む色とりどりのパッケージにもそのこだわりが反映されています。
さらに、お店の場所や内装に至るまで、作り手の想いが踏襲されているんです。
作り手の個性が表現されていて、見ているだけでもワクワクした気持ちになります。
自分だけのマリアージュを見つけて
チョコレートと一緒にぜひ楽しんでいただきたいのが、ドリンクとの組み合わせ。
「チョコレートとドリンク」のように、違う素材同士の組み合わせや相性のことを「マリアージュ」といいます。
チョコレートと何をマリアージュさせるのか?世間では多くの方がさまざまな試行錯誤を行っています。
人気のマリアージュは、ワインやウィスキー、日本酒などのお酒やコーヒー、紅茶など。
ワインなら、赤?白?産地は?渋みや甘みなどの具合でも変わってきますね。
コーヒーなら、豆の種類や焙煎方法など。
カカオの可能性が無限大なら、合わせるドリンクの可能性も無限大。
そしてもちろん、マリアージュはドリンクだけではありません。ナッツやフルーツなどの食材だってチョコレートによく合います。
果てしなく広がるチョコレートのマリアージュ。あなただけの最高の組み合わせを見つけてみてください。
まとめ
今回はビーントゥバーについて、スタイルやこだわり、楽しみ方などを解説してきました。
- ビーントゥバーとは、カカオ豆からチョコレートになるまでを作り手がすべて一貫して行うスタイルのこと。
- カカオの産地や発酵、焙煎などによる違いをチョコレートで表現できる。
- マスマーケット向けの「甘いチョコレート」からの素材回帰という側面もある。
- 作り手のこだわりが強く、カカオ豆や原料、パッケージやお店などにも思想や価値観が強く出る。
- 作り手の想いを感じ、自分なりの楽しみ方を見つけていくのが嗜好品としての楽しみ方。
これを機に、一人でも多くの方がビーントゥバーチョコレートを手に取るきっかけになると嬉しい限りです。
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